わたがしびより

永遠の“HERO”浅田真央さんのBEYONDと無良崇人さん、TEAM ORANGECHEERSさんを応援しています

浅田真央さん BEYONDのセットリストと演目背景 

 

遅ればせながら、大千秋楽まで全国23カ所全103公演完走おめでとうございます!
私もありがたいことに大千秋楽を会場で観ることができました。
始まる前から驚くほどの熱気に包まれていて、始まってからもものすごい盛り上がりでとても楽しかったです。
座長浅田真央さんを始めとするキャストの皆様、スタッフの皆様、制作チームの皆様、スポンサーその他関係者の皆様、改めてこの素晴らしいBEYONDというショーを観る機会を与えてくださってありがとうございます。

またライブ配信をありがとうございました。
アーカイブを残して下さったことで、会場から帰ってきてからも観ることができました。

9月にBlu-rayが届くのが待ちきれないので、サンクスツアーに続きセットリストと演目の背景を私なりに書いてみました。
ライブ配信があった大千秋楽において、中村優さんは怪我のため出演される演目が限られていましたが、優さんがフル出演されていた時の通常Ver.でセットリストを作っています。

またBEYONDの公式プログラムに、真央さんの詳しい演目解説などが記載されていますが、現在BEYOND公式サイトで販売中ですので、その内容には極力触れないようにしています。

周知のとおり、BEYONDはこのショーのために書きおろされた15曲目「BEYOND Grand Finale-PHOENIX-」を除き、真央さんの選手時代のプログラムが大幅にアレンジ・新解釈されています。

音楽はYouTubeのほか、sportifyなどを使っていますがブログではプレビューになっています。

正確な使用曲をご紹介する主旨のブログではありませんので、曲は参考ということでご容赦ください。


原曲にまつわる解釈や、背景の歴史などには諸説ある場合がありますので、ご了承のほどお願いいたします!
間違いなどあったらごめんなさい!

 

【目次】

 

🎩キャスト🎩 浅田 真央さん 田村 岳斗さん 柴田 嶺さん 今井 遥さん 小山 渚紗さん 中村 優さん 山本 恭廉さん 松田 悠良さん マルティネス・エルネスト(エルニ)さん 今原 実丘さん 小林レオニ―百音さん(BEYONDパンフレットの記載順)

 

①シング・シング・シング 

 

トランペッターのルイ・プリマ作曲。(1936年)

最も知られているのがドラムスが大きくフィーチャーされたベニー・グッドマン楽団の演奏です。
スウィング・ジャズ”は、およそ1930年代から40年代にかけてアメリカで大流行したジャズの一ジャンルで主に白人のビッグ・バンドが主体になって演奏したいわゆるダンス・ミュージックです。

スウィングの王様と呼ばれ、自らクラリネットの俊才でもあったグッドマンは、白人と黒人が共演することが殆どなかった時代に、優れた黒人ミュージシャンを積極的に雇い入れた白人奏者としても有名です。1938年にクラシックの殿堂カーネギー・ホールで行われたジャズ・コンサートは伝説となっています。
軽快なスウィング・ジャズは戦争や恐慌など暗いニュースが多かった当時のアメリカを元気づけました。

また、ボブ・フォッシー振付のブロードウェイ・ミュージカル「ダンシン/Dancin'」(1978年)の中のレヴューでも同じ編曲が使われています。腰を落としたスラウチ姿勢など彼独特の振付がBEYONDでも一要素として取り入れられていると思います。

オープニングにふさわしい華やかでカッコいいナンバー!!

 

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振付はHIROMIさん。
全員

 

 

②アイ・ガット・リズム 

 

アイラ・ガーシュウィン作詞 ジョージ・ガーシュウィン作曲 

導入部のスクリーンの小屋にチャーレーがかかっているのが遊び心があって嬉しくなります。

そのあと音楽は、ブロードウェイ・ミュージカルの「クレイジー・フォー・ユー」(1992年初演)のサウンドトラックからの「アイ・ガット・リズム」に移り、真央さんが登場します。


クレイジー・フォー・ユー」は同じくブロードウェイ・ミュージカルの「ガール・クレイジー」(1930年初演)がもとになっていて、全編がガーシュウィンの音楽で彩られています。(お話の設定は大きく改変)

「アイ・ガット・リズム」は第1幕のラストで展開され、このミュージカルの白眉と言われています。

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「アイ・ガット・リズム」は1:12~


クレイジー・フォー・ユー」は1930年代のアメリカ西部ネバダ州が舞台。主人公の女性ポリーが、父親が経営する劇場を救うため、みんなで力を合わせて頑張ってショーを開催し町おこしをするというあらすじで、いわゆるボーイ・ミーツ・ガール系のとても楽しいミュージカルです。(劇団四季さんで8月26日から全国で開幕されるようです。私は横浜公演に行きましたがとても面白かったです)

BEYONDの舞台もスクリーンをみるとネバダ州かその近郊なのかな??

BEYONDでは50年代風の衣装を着ているそうなので、ミュージカルより少し先の話ーもしかしたらポリーやその仲間たちの子供たちなのかも、と想像したりも。

 

「アイ・ガット・リズム」は劇中の一曲です。

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ミュージカルでは、ポリーが「町のみんなが一緒に頑張って、いたわりあって、“生きているんだ”と実感してる」というセリフのあと、この歌を歌い始めます。

(BEYONDでは真央さんが一人登場)

歌詞をまとめるとこのような感じです。(意訳)
「ため息もお金で買えるものもいらないわ 小鳥たちは歌う、声を合わせて 私たちも一緒に歌おうよ!私はとても幸せなの 私が手に入れたものをみて!」

(ここでキャストのみなさんが登場)

「リズムを手に入れた!音楽を手に入れた!私のいいひとも手に入れた!ほかに何を望むの?」
「緑の牧場でひな菊つんだ!わたしのいい人も手に入れた!」
「もめごとなんて気にしない!笑いとうれしさがいっぱい!」
「お星さまの光をつかんだ!甘い夢もつかんだ!私のいいひとも手に入れた!ほかに何を望むの?」「他には何もいらないわ!」


おもちゃ箱をひっくり返したようなカラフルで楽しいスクリーンと衣装、おぼんダンスやデッキブラシダンス。小道具使いとみんなのアドリブ感が光る誰もが楽しめるナンバー!
おぼんダンスが終わった後、真央さん達が“キュッキュキュッキュ”という音で踊るシーン(伝われ)は、ミュージカルでは空気入れを押す音で、その後の“ポンッ“という音(スクリーンで紙吹雪?が舞う時の音)はラバーカップ(詰まりをとる道具)の音です。

 

BEYONDのスクリーンを連想させるネバダ州もしくはネバダ州近郊の写真を集めてみました。(スライドショーになっています)
①シエラ・ネバダ山脈②シエラ・ネバダの鹿③ネバダ州のDaisy(ひな菊)

[http://

]

 

振付はHIROMIさん

柴田 嶺さん、今井 遥さんを除く全員

 

ラヴェンダーの咲く庭で

 

使用曲はナイジェル・ヘス作曲の「ヴァイオリンと管弦楽のためのファンタジー(ファンタジア)」です。映画「Ladies in lavender/ラヴェンダーの咲く庭で」の劇中で使われるオリジナル曲です。同じテーマのメロディは全編を通して随所に使われています。
演奏はナイジェル・ヘス指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 ソロ・ヴァイオリンはジョシュア・ベル

 

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映画「Ladies in lavender/ラヴェンダーの咲く庭で」のあらすじ

物語は1936年の夏から秋へかけての、イギリス南西端、コーンウォールの海辺の町。
海と空の狭間にあるような突出した崖の上に、美しいラヴェンダーが咲く庭がある一軒家がありました。そこで二人の老姉妹が穏やかに仲良く暮らしていました。
ある嵐の翌朝、姉妹は海岸に流れ着いた一人の美しい青年が倒れているのを発見し、家へ連れて帰り看病します。青年は目を覚ましますが言葉がほとんど通じません。やがて彼がポーランド人でヴァイオリンの名手だということが分かります。彼はチャンスをつかむために渡米中のさなか船が難破して遭難したのです。
元気になった明るく美しい青年はヴァイオリンを通じて村に溶け込んでいきます。姉妹は彼に特別な感情持つようになります。とりわけ妹のアーシュラは生まれて初めて熱い恋心を抱きます。
ただこうした幸せな時間は長くは続きませんでした。彼のたぐいまれな才能に気付いていた女性画家が、世界的ヴァイオリニストの兄に彼を預けようとしたのです。急なことに青年は姉妹に別れを告げることもできないまま、突然旅立ってしまいます。時が経ち姉妹のもとにロンドンから手紙が届きます。そこには青年の謝罪と感謝の気持ちとともに、ロンドンでのコンサートの演奏をラジオで聴いて欲しいと綴られていました。
当日、村人たちは集まってラジオの前に、老姉妹はロンドンのコンサート会場の客席にいました。彼はオーケストラをバックにソリストとして演奏します。その時の曲が「ヴァイオリンと管弦楽のためのファンタジー」です。

この映画の原作は、ウイリアム.J.ロックの「Faraway Stories」という短編小説集の一編で「大人のためのフェアリー・テール/おとぎ話」とうたわれています。

長い間待ち続けていたプリンスが、おとぎの国から抜け出して、ついに彼女のもとへやって来たのだ。それも海の漂流者として。そして彼との、ワクワクするような幸せの時間を、ほんの少しだけ、味わうことができた。(「Ladies in lavender/ラヴェンダーの咲く庭で」ウイリアム.J.ロック著 浅井竜介訳 ワニブックスより引用)

たとえ、見知らぬ女性が彼を連れ去らなかったとしても、彼の意志に反して物語を継続することは不可能だったに違いない。なぜならそれが、おとぎ話の必然的な終末なのだから。(引用は上記同)

そして、アーシュラは思い切り泣いて、ほほえんで、強くその一歩を踏み出します。

BEYONDでも嵐が去った後、おとぎ話のような美しく幻想的なラヴェンダー畑が映し出されます。
遥さんと嶺さんが描く物語は、最初は映画内でアーシュラの夢に出てきた少女の頃の自分と青年が恋人になるという幻想をモチーフにしているのかと思いましたが、ラヴェンダー畑を舞台にした別の恋のようです。最後のスクリーンはラヴェンダー畑から新しい世界への旅立ちを示唆しているのかなと私は思いましたが、いかがでしょうか?

 

コーンウォールのラベンダー畑②映画のロケ地、コーンウォールのセント・アイヴズ。ロケ地は「純真さと、おとぎ話のような味わい」を表現するために、光の美しさと神秘性で選ばれたそうですBEYONDでもスクリーンの光の使われ方がとても素敵でした。③コーンウォールはイギリス南西端です。

今井 遥さん 柴田 嶺さん

※「ラヴェンダーの咲く庭で」映画パンフレットより

 

④Say Hey Kid


ジョン・ピザレリの(当時の)トリオのメンバーによるオリジナル。野球選手のスーパースター、ウイリー・メイズに捧げられた曲だそうです。“Say Hey Kid”はウイリー・メイズのニックネーム。
BEYONDの使用曲はピザレリがドン・セベスキー指揮の二ューヨーク・オールスター・ビッグ・バンドと共演したアルバム「Our love is here to stay/邦題:ドリーム」(1997年)の中の一曲だと思います。(参考 ドリーム  ジョン・ピザレリ [東京]BMGジャパン 1997 ブックレット)
選手時代の真央さんの演技はハイライトでしか観たことがなく部分的にしかわかりませんが同じ曲を使われているようです。

ブロードウェイの華やかなネオンと喧騒の中を、アップテンポなビートに乗って、悠良さんとエルニさんが、息ぴったりにステップで軽快に煌びやかに駆け抜けていくところが特に大好きです。二人の踊りのセンスとスケーティングスキルを堪能できるプログラム。悠良さんの連続ジャンプも見どころです!

このあと続く「Pick Yourself Up」への流れも含めて楽しすぎてついついニヤニヤしてしまいます。サンクスツアーもそうでしたが、BEYONDでは更に曲間のつなぎ方が凝っています!

衣装もかわいいです!

 

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松田 悠良さん エルニさん

 

⑤Pick Yourself Up

 

ドロシー・フィールズ作詞  ジェローム・カーン作曲 

原曲は、ダンス界のゴールデン・コンビと言われたフレッド・アステアジンジャー・ロジャースのハリウッド・ミュージカル映画「スイング・タイム〈有頂天時代〉」(1936年)の主題歌です。

アステア扮するダンサーが、NYで出会ったダンス教師(ロジャース)にひとめ惚れ。コインを返すために彼女が働くダンススクールへ行き、成り行きで彼女に教えてもらうことに。
アステアは素人を装いわざと下手に踊ります。うまく踊れない(ふりの)アステアと彼を励ますロジャースが一緒にこの曲を歌います。

下の動画は、そのあと、スクールのオーナーがロジャースをクビにしようとしたため、アステアが彼女が一流の先生だと証明しようと、本気を出して踊りだす、というシーンです。ここでは「Pick yourself Up」はダンス音楽として使われています。
このロジャースの、躍動感溢れる計算しつくされた美しいスカートの煽りは⑫曲目の「チャルダッシュ」のそれを連想させます!

(動画のタイトルは「Top Hat」になっていますが「Swing Time」です)

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BEYONDでは、ナット・キング・コールがカバーした曲が使用されています。
真央さんの選手時代は、この曲を娘さんのナタリー・コールのカバーで滑っていましたね!

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歌詞をまとめると(意訳)「自分で立ち上がって 大きく息をして 埃を払ってまたやり直す 不可能なんてないんだ 失敗しても自信をなくさず 希望を持って初めから 泥のように疲れていても 勇者たちも失敗から立ち上がった 深呼吸して 自分で立ち上がって 埃を払って また初めから」というような勇気がもらえる素晴らしい歌詞です。

とにかくイケ散らかしたキャストたちに客席から悲鳴が上がります!!
大千秋楽で優さんが再登場してくれて、とても綺麗なスピンをみせてくださって本当に嬉しかったです。岳斗さんも恭廉さんもカッコいいとしか、、!!

田村 岳斗さん 中村 優さん 山本 恭廉さん

 

⑥シェヘラザード

 

使用曲は、1888年リムスキー・コルサコフによって作曲された交響組曲
アラビアンナイト」の物語の中から4つのエピソードをピックアップし、それぞれ4つの楽章に配しているそうです。


アラビアンナイトとは


アラビアンナイト」の原題はアラビア語で“アルフ(千)・ライラ(夜)・ワ(~と)・ライラ(夜)”ということで「千(夜)一夜物語」とも呼ばれています。
長年をかけて様々な国の人の手で書き足されながら成長した一大説話集です。
アラビアンナイト」はシェヘラザードを巡る枠物語(様々な物語を一つにまとめる額縁のような役割を果たす)から始まります。
それが冒頭の「シャフリアール(シャーリヤル)王とその弟の物語」です。簡単なあらすじは以下の通りです。

【「シャフリアール王とその弟の物語」のあらすじ】
“昔ペルシアの国に名君と名高いシャフリアールという王様がいました。ある日愛妃に裏切られていたことが分かり、妃とその愛人たちを殺します。それからというもの王は女性不信になり、毎日新しい処女(おとめ)を一夜限りの妃に迎えては翌日首をはねるという行為を繰り返していました。こうして王国から若い娘の姿がなくなり、国中が悲しみに包まれていました。
そこで、美しく深い教養のある大臣の娘シェヘラザードが、このような愚行をやめさせるべく、自ら志願して王の花嫁になりました。その夜、シェヘラザードは王に了解を得て不思議な物語を始めました”


夜が明けるころシェヘラザードは絶妙なタイミングで物語をやめます。王は続きが気になって、シェヘラザードを次の日も生かしておくことにしました。
そうして毎夜毎夜、千一夜に渡りシェヘラザードが命を懸けて王に語った数奇な物語の数々が「アラビアンナイト」です。
つまりシェヘラザードが「アラビアンナイト」の話し手という設定になっています。

バレエ版シェヘラザード


バレエ・リュス(Ballets russes/直訳すると“ロシアのバレエ”の意。ディアギレフが率いるロシアのバレエを紹介するために編成されたバレエ一座の名称)の2年目のパリ・シーズンが初演。(1910年)
ミハイル・フォーキン振付の全1幕バレエ。

バレエ版はシャフリアール王が女性不信になった原因、愛妃(または愛妾)であるゾベイダの裏切りの場面が上述した枠物語からクローズアップされています。不貞場所の設定(原作では庭園)などは違えど大筋は原作と同じです。初演時は金の奴隷をニジンスキーが演じています。

【バレエ版シェヘラザードのあらすじ】
舞台はシャフリアール王のハーレムの居室。王は狩りに行く準備をしています。実は王は、弟君から女たちが留守中に不貞を働いているのではないかという忠告を受け、ならば狩りに行く振りをして確かめよう、と計略しているのです。王と弟が出かけてしまうと、ハーレムの女たちは喜び、宦官長をそそのかし扉を開けさせます。すると中から奴隷たちがあらわれ、饗宴が始まります。
ゾベイダもお気に入りの金の奴隷と官能の世界へ酔いしれます。※BEYONDではこの場面を真央さんと嶺さんが演じています。
饗宴が頂点に達したところで、王たちが帰還します。この裏切りに逃げ惑う奴隷や女たちは次々と斬られ、金の奴隷も殺されてしまいます。
ゾベイダは王に赦しを乞いますが自らの運命を悟って自害します。(原作ではゾベイダは処刑されます)

BEYONDのシェヘラザード


BEYONDのこのプログラムはバレエの「シェヘラザード」をオマージュしています。

原作では情事に向かう王妃(原作では“ゾベイダ”という名前はでてこず、“王妃”という記述となっています)について、このように描かれています。

王妃はたぐいまれな美人で、美貌と、優艶と、均斉と、申し分ない愛らしさの典型であった。そして、冷たい流れを慕い求める羚羊(かもしか)のように、しとやかに歩みを運んできた(バートン版 千夜一夜物語 大場 正史訳 筑摩書房」より引用)


まさにこのプログラムを滑る真央さんのイメージにぴったりです!嶺さんも「白鳥の湖」のノーブルな王子とはまた違った、精悍でしなやかな野生味のある奴隷役を演じていて、二人の表現の幅を感じます。

プログラムの最後に、真央さんが音楽の終わりに合わせて手を高くあげます。その直後雷が鳴ります。バレエではあの音楽の直後に王が帰ってきて惨劇を迎えるのですが、雷がシャフリアール王の怒りのようにも聞こえます。

バレエ版では、ゾベイダは自らの運命を悟って自害します。

背徳的な享楽によって、二人は命を落とす宿命(「アラビアンナイト」は“宿命観(運命観)”がその根底に流れています)となるわけですが、冥界への入口が見えているような刹那的な真央さんと嶺さんの演技をただただ見入ってしまいます。

そして、BEYONDでは雷の音とともに、“宿命”は次のプログラム「カルメン」のレオニ―さんの“宿命の(恋の)テーマ“へ引き継がれます。

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真央さん 柴田 嶺さん

参考「バレエ大図鑑」 総監修 ヴィヴィアナ・デュランテ 日本語版監修 森奈緒美 河出書房新社
  「名作バレエ50 鑑賞入門 」文・監修 渡辺真弓 世界文化社
  「図説アラビアンナイト西尾哲夫河出書房新社
  「子どもに語るアラビアンナイト西尾哲夫 訳・再話 茨木啓子 再話 こぐま社

 

カルメン

 

ビゼー作曲。フランス・オペラの最高傑作とも言われます。初演は1875年。原作はプロスペル・メリメの小説。

BEYONDでは敢えてストーリーをなぞらず、メドレー方式にしているのかなと思いました。衣装も含めそれぞれの個性が生かされた4人のカルメンと3人の闘牛士で「カルメン」の世界観をゴージャスに表現しています。
奔放と言われるカルメンですが、歌(音楽)と踊りを愛し、自分の信念を貫く強い女性でもあります。BEYONDでもそういったカルメンという人物像を、多面的に複数の女性キャストを通して演じるという非常に面白い試みのように思いました。加えて大スターである闘牛士を、男性キャストたちが個々の持ち味を生かしながら、華やかに勇ましく情熱的に演じているのもとても素敵です。

 

オペラのあらすじとオペラの中でのBEYOND使用曲の流れ

 

(前奏曲 BEYONDの1曲目7曲目)
♡第一幕 @タバコ工場の前の広場 ここは1820年代のスペインのセビリア。竜騎兵伍長ドン・ホセは、タバコ工場に勤める美しく自由奔放なジプシー(ロマ)のカルメンと出会います。(エントランス☆同2曲目ハバネラ☆同5曲目)ホセには結婚を決めている幼馴染がいて最初は言い寄ってくるカルメンに無関心でしたが、次第にカルメンの魅力に取りつかれ、喧嘩をして傷害で捕まったカルメンを逃がしてしまいます。

♡第二幕 @セビリアの城壁に近いリーリャス・パスティアの店(カルメンのなじみの酒場)。カルメンは仲間たちと歌い踊っています。(ジプシーの歌☆同6曲目)そこへ人気闘牛士エスカミーリョが現れます。(闘牛士の歌☆同4曲目)エスカミーリョは美しいカルメンに目が留まり花をプレゼントしますが、カルメンに軽くあしらわれます。一方カルメンを逃した罪で営倉にいたホセが釈放され、カルメンに会いに店にやってきます。ホセはカルメンに促されるまま、心ならずも軍を捨てカルメンとともに密輸団グループの一員になってしまいます。

♡第三幕 @密輸団グループの山の中のアジト しかし束縛を嫌うカルメンは嫉妬深いホセとうまくいきません。ある日エスカミーリョがカルメンを追ってアジトにやってきます。続いてホセがカルメンと出会う前に結婚しようと思っていた幼馴染が現れます。母親の危篤の知らせを受けて、ホセは一旦故郷に帰ります。

第四幕への間奏曲(アラゴネーズ☆同3曲目)

♡第四幕 @闘牛場 エスカミーリョが出場する闘牛が開催される日。カルメンは新たにエスカミーリョと恋仲になります。
にぎわう闘牛場の裏で、ホセはカルメンに復縁を求めにやってきます。
カルメンはかるた占いで自らの運命の定めを予感していましたが、食い下がり脅迫するホセに対し、カルメンは「私は嘘はつかない。いうことはきかない。自由に生まれて自由に死ぬ」と信念を貫き、ついにホセに命を奪われてしまいます。

 

BEYOND使用曲
(曲は参考です)

 

1曲目前奏曲カルメンの“宿命の(恋の)テーマ”(悲劇的な運命を暗示)。小林レオニ―百音さん

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2曲目「エントランス」(華やかな“カルメンのテーマ”) 小林レオニ―百音さんと今原 実丘さん

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3曲目「第4幕への間奏曲 (アラゴネーズ)」 今原 実丘さん
“アラゴネーズ”はスペインのアンダルシア地方の民謡の一つだそうです。 

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4曲目闘牛士の歌(諸君の乾杯を喜んで受けよう)」中村 優さん・山本 恭廉さん・エルニさん 途中から+小山 渚紗さん 


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 第2幕 歌はエスカミーリョ。闘牛の様子や闘牛士の心意気が生き生きと歌われています。
歌詞の一部は“ トーレアドールToréador/闘牛士!構えはいいか。闘牛士闘牛士!だが戦いながらも忘れるな。黒い瞳がお前を見つめてるぞ。恋がお前を待っている”という感じです。途中で入る女声の“ラ・ムールL'amour/恋”はカルメンと仲間たちの声。渚紗さんはここから登場します。

 



5曲目「ハバネラ(恋は野の鳥)」中村 優さん・山本 恭廉さん・エルニさん・小山 渚紗さん~渚紗さんのソロ 

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第1幕 工場から広場にカルメンが現れ(☆2曲目の「エントランス」が流れます。)そのあと、男性たちを挑発しながらカルメンが歌う舞曲。“恋は言うことの聞かない小鳥、誰にも飼いならすことはできない。恋はジプシーの生まれ、掟なんかありはしない。好いてくれなくても私は好き。でも私に好かれたらご用心!”というような歌詞です。カルメンの自己紹介的な歌。

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6曲目「ジプシーの歌」今井 遥さん

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第2幕 カルメンとジプシー達が酒場で歌い踊る舞曲。BEYONDでは歌詞なしですが、オペラでは“響きも鋭く鈴をうち鳴らせば、その異国風の音色にジプシーたちは立ち上がる。タンバリンが調子をとれば、ギターも負けじとかき鳴らす。いつもの歌といつものリフレイン。歌と踊りが一つになって、最初は遠慮がちに、やがて次第に速さを増して激しく高なっていく。歌のリズムに誘われて、何もかも忘れて酔いしれて踊りの渦に身をまかせ”というような歌詞があります。
遥さんwithタンバリン!!タンバリンは思いのほか大きくて重いですし、特にロールをすると手が疲れてきてしまうのですが、遥さんはあのスピードで踊りながらスケートしつつ、音楽に合わせてリズミカルにタンバリンの強弱まで意識して演奏しているのは本当にすごいと思います!!

 

 

7曲目前奏曲」レオニ―さん、今原さん、小山さん、今井さん、中村さん、山本さん、エルニさん 

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“闘牛のテーマ”と“トーレアドール(闘牛士)のテーマ”を、BEYONDではグランドフィナーレとして使用しています。みなさん華麗です!!


参考 カルメン(新潮CDオペラブック) 監修 永竹 由幸 新潮社


⑧バラード第一番

 

ショパン作曲

会場に鐘の音が響きわたり、真央さんのソロプログラム「バラード第一番」が始まります。2010-11シーズンのエキシビジョンでは「バレリーナが練習しているイメージ」でタラソワさんが振付されました。私が選手時代の真央さんのプログラムの中でもっとも好きな作品の一つです。真央さんの「バラ1」を生でみたくてみたくて、初めてアイスショーにいった思い出があります。白の衣装を着た「白バラ」、黒の衣装の「黒バラ」とファンの間でも評判でしたね。私は黒バラを観ました!とてもとても素晴らしかったです。

時が過ぎ、BEYONDではあの時の可憐な真央さんとはまたガラッと雰囲気を変え、観る者の魂をゆさぶるような作品に生まれ変わりました。曲に完全に溶け込んだキレのある3Loと3回の2A、右に左に変幻自在に一つ一つ違う表情を持たせたツイズル、そしてあの心震わす独創的なスピン、、。

「バラード」はもともと文学上の物語詩、またはそれに音楽をつけた歌曲などを指すそうですが、ショパンは「バラード」という名前を器楽に使った最初の作曲家だと言われているようです。
ショパンの「バラード」は一説によれば、ショパンと同時代のポーランドを代表する詩人アダム・ミツキェーヴィチの詩にインスピレーションを得、「バラード第一番」はそのうち「コンラット・ヴァレンロット」であるとして有名ですが、その真偽は明らかになっていないようです。もしそうだとしても詩のストーリーを表した音楽ではないようですが、「コンラット・ヴァレンロット」を読むと、この詩があまりにも「バラード第一番」と合っていて、こういった説がでるのも大きくうなずけるなと思います。
先日伺った仲道郁代さんのショパンのピアノリサイタルでは、演奏前に曲ごとの解説をしてくださったのですが、その中で「バラード第一番」は「コンラット・ヴァレンロット」の話に触れられ、“ショパンの(祖国ポーランドへの※この部分は話の流れでの私の解釈です)思いと物語が共鳴して、音になって出ているのではないか”というようなことをおっしゃていました。

真央さんのBEYONDでのプログラムは「孤独」を表現しているとのことです。私は“コンラット・ヴァレンロット”の妻であり、リトアニア大公女であったアルドナを想起しました。鐘の音から始まる物語、水を連想するスクリーン。真央さんのプログラムにはアルドナの孤独もイメージの一つとして表現されているのではないかと思いました。

 

「コンラット・ヴァレンロット 歴史物語ーリトアニアプロイセンの故事より」について

 

作品の主人公“コンラット・ヴァレンロット”は実在の人物をモデルにして14世紀半ばから末にかけての出来事として創作されています。物語には歴史的人物が数多く登場します。


この物語の歴史的背景:13世紀後半に十字軍騎士団(チュートン騎士団)がプロイセンを征服し、リトアニアに向けて本格的な戦いを始めます。リトアニアは強大な異教徒国家であり、両者は13世紀後半から15世紀初めに至るまで戦い続けることになります。※1この物語が展開される14世紀後半は、十字軍騎士団による攻撃が空前の激しさに達し、リトアニアは疲弊していました※2


「コンラット・ヴァレンロット」に出てくる主要な舞台は、マリエンブル(マルボルク  十字軍騎士団の首都)とカウナス(十字軍の攻撃から守るためにつくられたリトアニアの城)です。
カウナス二ェメン川ヴィリヤ川という二つの川の合流地点にあります。二ェメン川は当時騎士団領とリトアニアの国境となっていたため、何度もここで戦闘が行われたといいます。この二つの川は物語の中で何度も出てきます。二つの川は物語の大きなキーワードの一つだと思います。
(下の地図をご参照ください)

 

「コンラット・ヴァレンロット」のあらすじ

 

物語はマリエンブルクの塔の鐘が鳴らされる所から始まります。管区長たちが総帥(総長 騎士団のトップ)の選挙のために集まっています。新しい総帥に選ばれたのは“コンラット・ヴァレンロット”。
彼は異国の男でしたが諸外国で数々の功績と名声をあげています。いつも傍らに白髪の修道士ハルバンがいます。

物語が進むにつれ、実は“コンラット・ヴァレンロット”を名乗る男が“なりすまし”であることが明らかにされていきます。

“コンラット・ヴァレンロット”を名乗る男は本当は、幼いころ故郷が十字軍騎士団に襲われ、家族が殺害された上に一人拉致されたリトアニア人でした。キリスト教の洗礼を受け、“ヴァルター・アルフ”と名付けられ、騎士団の総帥に我が子のように愛されました。しかし、昔騎士団に捕虜にされ通訳を務めていた吟遊詩人の老人(ハルバン)が出目を忘れないようにアルフに教え諭したため、アルフの心はリトアニア人のままでした。

 

アルフは最初の対リトアニアの戦いの中、たまらず、ハルバンとともに騎士団を離れリトアニアに逃げ込みます。時の大公は秀麗な若者アルフをカウナス城に迎えます。そこでアルフは女神のように若く美しい大公女のアルドナと恋に落ち、アルドナはキリスト教に入信、結婚します。
その頃、騎士団のリトアニアへの攻撃が激化し、アルフはある計画を断行しようとします。黙って城を出たアルフのあとをアルドナは追いますが、アルフは自分のことは忘れて幸せになってほしいと伝えます。アルフはアルドナを愛していましたが、家庭に幸福を見出せませんでした。祖国に幸福がなかったからです。

 

アルドナは二ェメン川の向こうの騎士団領にある尼僧修道院に入り、やがて司祭たちの反対を押し切り、マリエンブルク城近くの塔で密かに隠者として自らを幽閉し暮らしていました。

司祭たちは 長い間許そうとはしませんでしたが 最後は 繰り返される願いに折れ 女に 塔の中の孤独な隠れ家を与えたのでした 女が神聖な敷居の向こうに立つとすぐに 敷居には煉瓦と石が積まれ 女は瞑想と神を道連れに 独りそこに残りました   女を生者たちから分かつ門は おそらく 最後の審判日に 天使たちによって開かれるのでしょう(「コンラット・ヴァレンロット」アダム・ミツキェーヴィチ著 久山宏一訳 未知谷 より引用)

 

10年以上たち、アルフが騎士団の総帥に選ばれた時、二人は塔の柵の入った小さい小窓(格子窓)を通して声だけの再会を果たします。※“(塔からの)声”は抜粋

(塔からの)声
私の溜息を 私の涙を数える人などいるでしょうか?私はこんなにも長い年月を泣き暮らしてしまいました 胸と目には こんなにも多くの苦しみがあるので とうとう私の溜息で鉄格子が錆びてしまったのではないかしら 涙は善良な人の心を貫くだけではありません 同じように 落ちた場所にある冷たい岩も貫くのです (引用は同上)

(塔からの)声
人間が 地上で魂をおおうために身体をまとい 魂とともに 甘美なる天へと飛び立つ場所 ああ 私は信じたのですーなぜなら天上の生活をすでに予感していたからーあなたの言葉を聴いていたときに!ああ それ以来 良き運命においても悪しき運命においても 私はあなたのこと 天上のことばかり 夢見ています(引用は同上)

(塔からの)声
私のことを想い 私の声を耳にするかもしれないと 天は 罪のない願いをかなえてくださいました あなたはいらしてくださった 私の歌をわかってくださった かつての私はお願いしたものー「声なきお姿であってもかまわないから 夢にあなたの姿が現れて 私を楽しませてください」と 今日は何という幸せ!今日私たちはともにーともに泣くことができるのですから…(引用は同上)


それから二人は毎晩のように話をします。

 

アルフがなりすました“コンラット・ヴァレンロット”は総帥になってからというもの急に無能になりました。やがて敗北した騎士たちがマリエンブルクに帰還してくると全員コンラットの指揮力不足を嘆きます。あろうことかコンラットは戦場から真っ先に逃げ出したこともあったといいます。こうしてアルフは故意に無能な“コンラット・ヴァレンロット総帥”を演じ、内部から十字軍を敗北させるよう導いたのです。

この敗北を探る秘密法廷が開かれました。①“コンラット・ヴァレンロット”と呼ばれる人物は本当のヴァレンロットではない。かつてヴァレンロット伯爵を殺し、その名前を騙ったのだ。②合戦中にリトアニア側と密かに通じていた。③塔の女隠者とリトアニア語で話をしていた、という証拠があがり、“コンラット・ヴァレンロット”に死刑宣告が下されます。

つむじ風が吹き、雪が降っている冬の朝。アルフはアルドナがいる塔の下に現れ、「十字軍騎士団は敗北した。一緒にリトアニアに帰ろう」と言いますが、アルドナは「神に誓って幽閉された以上はそれはできない」と断ります。そして変わり果てた幽霊のような私はもうかつての私ではない、と。アルドナはこう伝えます。「もういちど二人が相結ばれることができるようにーただしこの世でではなしに」

 美しい谷間は幸福なままにしておきましょう 私は私の石室の静寂が好きです 私には幸福は十分です お達者なあなたにお目にかかれて 優しいあなたの声を毎晩お聞きできただけで この静寂の中で私は 愛しいアルフよ!私は一切の苦悩を和らげられましょう (引用は同上)

外は氷雨が降っていました。

“コンラット・ヴァレンロット”を処刑しようとする声が聞こえてきます。アルフは捕まる前に毒をあおって自害します。絶命する直前にアルフはアルドナと約束した合図を送り、アルドナも幽閉先の塔で自らの命を絶ちます。

 

物語はアルフとアルドナが亡くなったところで終わりますが、史実としては、リトアニアはその後、物語の中でアルフが密かに通じていた(と設定された)人物らを中心に、ポーランドリトアニア連合が確立、リトアニアキリスト教に改宗します。ですが十字軍騎士団はリトアニアの改宗は偽装とし認めようとしませんでした。
1410年のタンネンベルクの戦いポーランドリトアニア連合軍は十字軍騎士団に勝利します。その後、騎士団は名実ともにしだいに衰微の一途をたどりました。

 

別れの日、アルフがアルドナと言葉を交わした時、アルフは戦いで赴いた際に見た廃墟となったカウナス城の近くの二人の思い出の谷の話をします。“枯れた柳が奇跡のように残っていて、立派な樹になり、その上に春の葉が息吹き若々しい花の和毛が舞い上がっているのだ”と。
アルドナは、“時々は近在の村の子供たちに祖国の木々や草や花の中で、リトアニアの歌を繰り返し歌わせてほしい。祖国の歌はリトアニアとあなたの夢を移し植えるでしょう”と返します。


ハルバンは死なず、リトアニアに戻ってアルフの生涯を後世に伝えることを選びます。
物語の序詞ではこう歌われています。“すべては断ち切られるーでも恋人たちの心は詩人の歌の中で、再び一つになることでしょう。

上述のように物語に多く出てくる「ニェメン川(河)」と「ヴィリヤ川」はアルフとアルドナが出会ったカウナス城が合流地点にあたります。


自らを幽閉しアルフを待ち続けていたアルドナの孤独と運命を、ハルバンは塔を見上げながらこのような歌を口ずさんでいました。父なる川と言われるというニェメン川(河)はアルフの、母なる川ヴィリヤ川はアルドナの例えのように思われます。※“歌”は抜粋


ヴィリヤ川よ 我らの川たちの母よ その底は 金色と空色の顔を持つ その水を手に掬う  美しいリトアニア女性はそれよりもっと清い心 それよりきれいな頬を持っている (引用は同上)


ニェメン河は愛する女を荒々しい両手の中に捕らえ岩や野原へと運び 冷たい胸に抱き 海の深淵でともに滅ぶ (引用は同上)


そしてあなたも同じく 新来者によって故郷の谷から追われるだろうーああ 哀れなるリトアニア女性よ!あなたもまた 忘却の波の中に沈むだろう でもあなたはもっと寂しい あなたは独りぼっち (引用は同上)


心と流れに警告を発しても甲斐ないこと 乙女は愛し ヴィリヤ川は流れる ヴィリヤ川は愛するニェメン河の中に消えた 乙女は女隠者の塔の中で泣いている (引用は同上) 

 

そして物語の終わりに、ハルバンはアルドナの運命についてこう歌い、結んでいます。

天国では音楽の天使が 心の中では敏い(さとい)聴き手が(引用は同上)

 

真央さんが深い孤独を表現したバラード第一番。青がベースの衣装と、涙雨とともに終始“水“を思わせるスクリーン。私はアルドナを思い起しましたが、真央さんの解釈をより深く聞いてみたいです。(特に最後に頭を抱える振付を)

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リトアニアの地図:カウナス/Kaunasは、ネムナス川/Nemunas River(ネマン川またはニェメン川)と、ネリス川/Neris River(ヴィリヤ川)の合流地点にあります。ネムナス川(ニェメン川)は当時騎士団領とリトアニアの国境となっていたため、何度もここで戦闘が行われました。
カウナスネムナス川(ニェメン川)沿いの景色
カウナス城  13世紀に十字軍騎士団の侵略を防ぐために造られた城。騎士団に破壊されたのち、15世紀に再建されました。
④マリエンブルク城 1274年に城郭の建築が開始、工事未完のまま1457年にポーランド王に売却され騎士団はこの街を離れました。

 

真央さんのソロ

参考「コンラット・ヴァレンロット」アダム・ミツキェーヴィチ著 久山宏一訳 未知谷
  ※1「北の十字軍『ヨーロッパの北方拡大』」山内 進著 講談社選書メチエ 
   ※2「リトアニアの歴史」アルフォンサス・エイディンタス 、アルフレダス・ブン・ブラウスカス 、アンタナス・クラカウスカス ミンダウガス・タモシャイティス著 梶 さやか 重松 尚訳 明石書店

 

⑨幻想即興曲

 

原曲はショパンのピアノ独奏曲。
1834年に作曲されたそうですが、ショパンの死後発見され1855年に出版されました。
“幻想“という名前は出版社がつけたものだそうです。
真央さんが自身初の世界女王となったフリープログラムで使われました。
選手時代はピアノとチェロのデュエットにアレンジされた曲を使用されていましたが、BEYONDでも同じ曲が使われていると思います。

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BEYONDでは、Seishiroさんが振付を担当され、素晴らしいフォーメーションダンスになっています。
このプログラムを観た時に、「レ・シルフィード」からのオマージュ作品のように感じました。

「レ・シルフィード」について

レ・シルフィード」はショパンピアノ曲の中から編曲し、バレエ音楽(管弦楽組曲)にした全1幕バレエです。振付はフォーキンで「シェヘラザード」と同じです。
1907年の初演時は「ショピ二アーナ」というタイトルでしたが、1909年バレエ・リュスが初のパリ公演を行ったときに「ラ・シルフィード/空気の精」を想起させる作品として「レ・シルフィード/空気の精たち(タイトルがちょっと紛らわしいですが“ラ”は単数につける冠詞、“ レ”は複数につける冠詞です)と改められました。「ラ・シルフィード」はロマンティック・バレエ(19世紀前半に流行したロマン主義時代のバレエ。ロマン主義は霊的なものをはじめ、ありとあらゆる超自然的なものを受け入れました)を代表する作品の一つです。
レ・シルフィード」は「ラ・シルフィード」「ジゼル」や「白鳥の湖」など古典バレエが目指した白の舞踏の世界(バレエ・ブランBallet blanc/白いバレエ)☆真っ白な衣装を着たコール・ド・バレエが登場する作品を指しますを20世紀になってまとめ直した作品になっているそうです。バレエ・ブランは精霊や亡霊、白鳥と「人ならぬもの」が特徴です。
レ・シルフィード」は、月光が満ちる森(グリム童話に出てくるように西洋ではしばしば“森の中“は異界を表すそうです)に、詩人がこの世ならぬシルフィードたちと踊る、という内容で、特に物語がなく踊りだけで成立するアブストラクト・バレエ(抽象バレエ)の先駆的存在です。

 

レ・シルフィード」の曲の中には「幻想即興曲」は入っていませんが、BEYONDでも月明かりにも似た幻想的なライトの中、ロマンティック・チュチュ丈の真っ白な衣装を着たキャストのみなさんが氷上に浮かびます。スクリーンは“無“になっています。妖精や精霊のようなこの世のものではない異界の存在とその精神的な世界に私たちを誘っているように思えます。
全身を使ったコンテンポラリーな動きをしながらも、流れが途切れることがない氷の上での複雑なフォーメーション。波立つようなアップダウンの動きや、ソロやデュエットが交互に配置されることで生み出される多層的な立体感。またNHK様で放送されたBEYONDの特集番組「浅田真央 私を超える」でもありましたが、後半のV字型の時の敢えて手の動きをずらすなどSeishiroさんならではの振付が映え更に輝きを増しているのも、プログラムの中で揃うべきところが揃っているからこそだと思います。その後の縦一列がリボンみたいにほどけていって、嶺さんにリフトされた真央さんが現れるところの振付もとても素敵です。この「幻想即興曲」はBEYONDというたくさんの日々を共に練習して公演を積み重ねてきたチームだからこそできるプログラムではないかとつくづく思います。

そしてBEYONDではこういった異界、いわばあの世/冥界を表現した世界観がとても印象的です。この「幻想即興曲」や「白鳥の湖」の白鳥のシーン(全3幕4場の場合は第1幕2場と第3幕)、冥界への入り口が見えているような「シェヘラザード」や「カルメン」。
サンクスツアーでも、「仮面舞踏会」「リチュアル・ダンス」などはそれに近いと思っていましたが、BEYONDはその世界観を更に深めていると感じます。
「舞踏はあの世とこの世を結ぶ」という話を聞いたことがありますが、スケートでもそういった世界を実現し芸術へと昇華させているところが真央さんを始めとするBEYONDチームの凄い所の一つだと思います。

 

全員

参考 「白のバレエを踊ろう!コルパコワと『レ・シルフィード』を踊る 」柴崎政夫著 文園社 ほか

 

⑩シュ二トケ・タンゴ

 

ロシアの現代作曲家アルフレードシュニトケが、ロシア映画「AGONY/苦悶(邦題 ロマノフ王朝の最期)」(1981年公開)のために作曲した演奏会組曲の中の一曲。※フィギュア・スケート ミュージック・セレクション 10-11 ワーナーミュージック・ジャパン ブックレットより

この映画は、帝政ロマノフ王朝が崩壊していくさまを、最後の皇帝ニコライ2世と、怪僧と呼ばれたラスプーチンを中心に描いています。

 

映画「 ロマノフ王朝の最期」のあらすじ

1916年、時の帝政ロマノフ王朝では、度重なる戦争によって経済を破綻させ、国内は混乱と飢餓がはびこっていました。民衆の不満は高まるばかりで各地で暴動が起き、それを政府は強力な弾圧で抑えようとしていました。
そもそもニコライ2世は気弱で政治に不向きであり、皇后アレクサンドラは取り巻きの人間に囲まれながら現実逃避するかのように神秘的宗教に熱中していました。
その中、霊感を持った修道僧ラスプーチンが、ロシア社交界に入り込み、ニコライ2世の息子の病気を治すという奇跡を起こし、ニコライ2世と皇后の信頼を勝ち得ます。とりわけ皇后がラスプーチンに心酔し、ラスプーチンとその一味は絶大な権力を握るようになり、国政にも大きな影響を与え、政治は腐敗しつくしていました。

使用曲の「タンゴ」は、劇中、貴族階級が泊まるホテルで、好色で知られるラスプーチンが一目惚れした美しい男爵夫人に人前もはばからず乱暴を働こうとし、その夫が激怒しラスプーチンを殴って止めて、大騒ぎになるというシーンでも流れています。捕まったのは、ラスプーチンではなく男爵の方で、いかに当時のラスプーチンの権力が大きかったのかが分かります。
その後、夫を助けたい一心で、夫人はひとりラスプーチンを訪ね、一筋の涙を流しながらラスプーチンに身体をさしだし生贄になろうとします。その一連のシーンでもこの曲が使われています。

 

今までサンクスツアーも含めて、相手が必要な演目はペアプログラムにしてきた真央さんがなぜこのタンゴは、女性と一緒ではなく男性一人で踊っているのか。それはこの映画のシーンのように、離れ離れになった夫と夫人を表現しているのではないかと私は思いました。

映画がBEYONDのこのプログラムのベースにあると感じたのはスクリーンからです。最初に映し出される白と黒の模様は、この映画の大きな特徴の一つである、時代背景をリアルにするために随所に挿しこまれた、ノイズの入った白黒のドキュメンタリーフィルムではないかと思いました。またはニコライ2世が森で見た、未来を暗示するかのような白い雪と大量のカラスかもしれません。映画ではこういった白黒との対比が至る所で鮮烈に印象づけられています。それは映画が進むにつれて増え映画の中の「現実」が歴史に呑みこまれていくことを示唆しているようです。BEYONDのスクリーンの模様の歪みには、混沌とした世情、時代の狂気や歴史のうねりを感じます。

次のスクリーンは夫が収容されている(であろう)地下牢の壁、最後は地下牢のダクト内のファンではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

愛する人を想いながらタンゴを踊る男性。このプログラムは、選手時代の真央さんの演技とBEYONDの男性の演技が対/ペアになっているような気がしました。
BEYONDでは男性キャストのみなさんがリレー式でこの曲を演技しますが、退廃の中から沸き立つような情熱が四者四様に感じられる素晴らしいプログラムだと思います。真央さんのあまりにも美しいプログラムも生涯忘れることがない一作品です。

タラソワさんが真央さんに授けた「鐘」もこの映画と歴史上同時期の、抑圧された民衆の嘆きや怒りがテーマになっていました。「鐘」においてもこの映画がタラソワさんのインスピレーションの一つになったのではないかと想像します。
「仮面舞踏会」、「鐘」、そしてこの「タンゴ」は、タラソワさんと真央さんの帝政ロシア三部作だと私は密かに名付けています。(こちらの3作品←(追記:「仮面舞踏会」は2作品あるので4作品ですね!)は3シーズン連続して披露されたので三連作とも言えるような気もします) 

BEYONDではおそらくですがこちらの3曲が使用されているのではないかと思います。

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エルニさん~中村 優さん~山本 恭廉さん~田村 岳斗さん

※「浅田真央さらなる高みへ」 吉田 順著 (株)学研教育出版より

 

 

白鳥の湖

 

チャイコフスキーの三大バレエの一つで、バレエ芸術の最高峰とも言われる名作。若い娘たちが白鳥の姿に変えられるというヨーロッパ各地の様々な民話に基づいているそうです。
初演は1877年ですが、現在上演されているバレエの基礎になっているのがプティパ、イワノフが新振付した改訂版(上演1895年)です。
色々な版が存在しますが、大概は下の動画のような物語になります。

バレエの簡単なあらすじ

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こちらのウクライナ国立バレエ(旧キエフ・バレエ)様の素晴らしい&分かりやすい動画(全3幕4場)を参考に、BEYONDの白鳥の湖のプログラムを追っていきたいと思います。

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第1幕1場までのあらすじ 舞台は中部ヨーロッパのある王国。王子ジークフリートが成人を迎えたのを多くの人が祝っています。そこで母后に、明日の舞踏会で花嫁を決めるように促されます。まだ恋をしたことがない王子が憂鬱な気持ちになっていたところ、白鳥たちが森に飛んでいくのを見て狩りをしようと追いかけていきます。



BEYONDでは、この後の第1幕2場(こちらの動画では全3幕4場ですが、全4幕構成の場合は第2幕)から4曲と第2幕(上同 第3幕)の中から4曲の計8曲が使われています。

BEYONDで使われている曲と上の動画のバレエシーンを合わせつつ、BEYONDのプログラムを概ねながら私なりの解釈を加え、全体的なストーリーの流れを書いてみました。限られた人数と時間の中で最大の工夫をし、曲もバレエの曲順通りで前後しないので、バレエのストーリーそのままをBEYONDで体感できるのではないかと思います。
また、スクリーンによる世界観の演出がBEYONDの大きな特徴の一つになりますが、とりわけ「白鳥の湖」においては、ストーリーテラーの役割も果たしているところが非常に練られているなと思います。

 

BEYONDのおおまかな構成 

 

前半:@深い森の湖のほとり(バレエでは第1幕2場)

 

1曲目 

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ここは深い森の湖のほとり。5羽の白鳥(今井 遥さん 小山 渚紗さん 松田 悠良さん 今原 実丘さん 小林レオニ―百音さん)が羽をやすめています。この森を支配しているのは悪魔ロットバルト(田村 岳斗さん)(※バレエでは上の動画の32:06~情景)

 

2曲目

7:20~

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ジークフリート王子(柴田 嶺さん)登場。そこへ一羽の白鳥(真央さん)が現れ、美しい乙女に変わっていくのを目にします。最初は怖がっていた乙女は次第に王子に心を開き始め惹かれ合います。乙女の名はオデット。ある国の王女でしたが、悪魔ロットバルトに白鳥の姿に変えられてしまい、夜の間だけ人間の姿に戻ることができるのです。他の白鳥もロットバルトに魔法をかけられた乙女たち。この魔法を解くには、まだ恋をしたことがない青年の永遠の愛の誓いだけ。もしその誓いが破られれば、自分たち白鳥は二度と人間に戻れないのだと王子に身の上を話します。二人は愛を確かめ合います。(※同46:34~オデット(白鳥)と王子のアダージョ ) 

 

3曲目

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愛の喜びをうたいあげるオデットのソロの曲を二羽の白鳥(今井遥さん、小山渚紗さん)で表現(※同58:55~オデットの踊り/オデットのヴァリエーション(ソロ))

 

 

4曲目

16:08~

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白鳥たちに囲まれ、王子がオデットに愛を誓います。(※同1:01:31~コーダ) 

 

~やがて夜が明け始め、白鳥たちは再び湖上に帰っていきます~

 

 

後半:@お城の大広間(バレエでは第2幕)~@湖のほとり(同第3幕)
5曲目~7曲目はバレエでは「グラン・パ・ド・ドゥ」と呼ばれる形式です。
「グラン・パ・ド・ドゥ」:主役二人のパート。アントレ(入場)~アダージョ(二人で踊る)~男性のヴァリエーション(ソロ)~女性のヴァリエーション(ソロ)~コーダ(再び二人で踊る 音楽の盛り上がりに合わせて、跳躍や回転などの大技が多い)
※女性のヴァリエーションの曲はBEYONDではなし

 

5曲目・6曲目

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一夜明けて、お城ではジークフリート王子の成人を祝う盛大な舞踏会が開かれています。花嫁候補として各国の姫君たちが招かれてますが、王子はオデットのことを想い気もそぞろです。
そこへ騎士に変装したロットバルトがオデットとそっくりにしたてあげた娘オディール(真央さん 一人二役)を連れてやってきます。オディールは妖しい魅力で王子を誘惑します。王子はオデットとオディールを混同し始め、次第に彼女こそ愛するオディールだと信じてしまいます。
(※同1:26:20~ オディール(黒鳥)と王子のアダージョ)

6:30~王子が愛する人を得た喜びを表現します。(※同 1:32:09~王子のヴァリエーション(ソロ)) 

 

7曲目

9:48~

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悪魔の勝利を確信させるオディールの魔性の舞(32回のグラン・フェッテ)に、王子はすっかりオディールとオデットが同一人物だと思い込み、オディールを花嫁にすると宣言し愛を誓ってしまいます。(※同 1:36:21~コーダ)

 

8曲目 

2:06~

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途端にロットバルトとオディールは悪魔の正体をあらわし、王子をあざけ笑いながら姿を消します。悪魔の計略にはまってしまったことに気付いた王子は取り乱し悔いながら、オディールのあとを追って走っていきます。(※同1:39:19~情景(終曲))

 

バレエの第3幕は再び湖へ戻ったオデットに赦しを乞うため王子がやってきます。
物語の結末は大きく分けるとハッピーエンドとバッドエンドがあります。上の国ウクライナバレエ様の動画ではハッピーエンドのようですが、果たしてBEYONDでは、、。

この「白鳥の湖」と「シェヘラザード」におけるBEYONDのバレエオマージュ作品の凄い所は、その再現性もさることながら、本来のバレエに実に多彩なフィギュアスケートの技を落とし込んで、フィギュアならではの作品として見事に完成させていることにあるのではないかと思います。そう考えてみても真央さんにとって嶺さんとのペアはやはり必然だったのだろうと改めて感じます。
真央さんと嶺さんの素晴らしさは勿論のこと、女性キャストのみなさんの一糸乱れぬ幻想的な群舞、遥さん渚紗さんのしなやかさが際立つ二羽の白鳥、一つ一つのポージングの美しさと力強さが印象的な圧倒的存在感を放つ岳斗さんのロットバルトも大きな見どころだと思います。

 

真央さん 柴田 嶺さん 田村 岳斗さん 今井 遥さん 小山 渚紗さん 松田 悠良さん
今原 実丘さん 小林レオニ―百音さん

参考 「華麗なるバレエ01(小学館DVDBOOK) チャイコフスキー白鳥の湖小学館 他

 

チャルダッシュ

 

チャルダッシュ (チャールダーシュ)”はタンゴやポルカと同じような舞踊音楽の一ジャンルで、19世紀ごろハンガリーで生まれたそうです。
チャルダッシュは、ヴェルブンコシュ(志願兵を集める募兵行事)から派生したと言われています。ヴェルブンコシュは男性が中心の踊りでしたが、チャルダッシュは男女ペアの踊りが中心です。“チャールダーシュ/ csárdás ”の語源は csárdá(酒場)。庶民が週末農作業がない時にお酒を飲んだり食事をしたりしながら恋人と踊っていました。やがて貴族の間で流行し舞踏会で踊られるようになり、ヨーロッパ中に広まりました。
その音楽を作り上げたのは、ロマ(ジプシー)の人々です。ロマの人々の音楽的才能はハンガリーの貴族たちにも認められ、お抱えの楽師として活躍する人も多くいたそうです。はじめはじらすようにゆっくり(LASSAN)から徐々に速く、そして激しく急速なパート(FRISKA)に突入するという緩急あるメロディーが、哀愁と情熱を感じさせるのが大きな特徴です。

BEYONDでは選手時代の真央さんと同じく、イタリアの作曲家でヴァイオリニストのモンティの「チャルダッシュ」という曲を使用しています。チャルダッシュの音楽をもとにジプシー(ロマ)・ヴァイオリンの形式にならって純粋な器楽曲として作曲されました。

キャストのみなさんは刺繍のたくさんついた衣装を着用されているので、もしかしたらこの日は収穫祭などのお祭りなのかもしれません。


衣装はバレエ衣装を手掛けるアトリエヨシノ様が制作されたそうです。チャルダッシュは「白鳥の湖」の舞踏会のシーンのキャラクター・ダンスの一つとしても踊られています。(上の⑪白鳥の湖の第2幕(上の動画 1:18:46~「ハンガリーの踊り」参照)
BEYONDの女性キャストのみなさんのチャルダッシュの衣装とも似てますよね!

 


身体全体でリズムに身を任せるのがチャルダッシュの醍醐味だそうですが、公演終盤でこの休みどころが全くないハードなプログラムを滑るのはすごいの一言です。鬼やな!!
そして、座長真央さんも怒涛の鬼プログラムで続きます。

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真央さん 柴田 嶺さんを除く全員

参考 NHK  ららら♪クラシック「チャールダーシュ 哀愁と情熱の不思議」

 

カプリース

 

原曲は、イタリアの天才ヴァイオリニストで作曲家のニコロ・パガニーニのヴァイオリンの小品24曲をまとめた曲集「24のカプリース」(1820年出版)。パガニーニは自作の演奏で大センセーションを巻き起こしました。パガニーニはその超絶技巧から「悪魔に魂を売った」とまで言われたそうです。

「カプリ―スCaprice/奇想曲」(イタリア語では“Capriccio”)は厳格な形式に縛られない、きまぐれで生気あふれた作品のタイトルとして使われているそうです。

パガニーニの「24のカプリース」はヴァイオリン奏法の限界に挑戦する難曲で、その技巧はのちの演奏技術の発展に寄与しました。
真央さんのプログラムにも使われている、特に有名な第24番の主題はリストやラフマニノフなど多くの作曲家にインスピレーションを与え、多数のオマージュ作品が生み出されています。

BEYONDでは真央さんの選手時代と同じ編曲版が使用されていると思います。
「24のカプリース」の第5番と第24番を中心に自由にアレンジしたものだそうです。
※スケーティング・ミュージック2010 EMIミュージックジャパンより

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この編曲版の冒頭部分は「24のカプリース」の第5番が使われていますが、第5番はヴァイオリニストのデイヴィッド・ギャレットがパガニーニ役を演じた映画「パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト」(2013年)のオープニングクレジットの曲としても使用されています。映画の中で「彼(パガニーニ)の知名度はナポレオン並だ」というセリフもありました。

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真央さんの選手時代の「カプリース」は確か、もともとSP(ショート)にと作られたプログラムだったそうですが、扇子を持ったほうがしっくりきたとのことで、エキシビジョン用に変更された、と記憶しています。
BEYONDでも扇子を持って、より激しく、より艶やかに舞っています。


パガニーニと、真央さんの超絶技巧のスケートが最強のコラボレーションを果たした、デモーニッシュな存在感をも感じられる至極のプログラム。
「バラード第一番」と「カプリース」がBEYONDでの真央さんのソロですが、真央さん自身のスケートも益々進化していて、初回の滋賀公演でも驚くばかりでした。「最高」を常にBEYONDし続ける真央さんのスケートをこれからもずっと見続けることができたら何よりも嬉しいです。

 

真央さんのソロ

 

 

愛の夢 第3番


リスト作曲。

「ピアノの魔術師」と言われたリスト。青年時代、初めてパリを訪れたパガニーニの演奏を聴いて決定的な衝撃を受け「ピアノのパガニーニになる」と叫び猛練習したと言われ、その圧倒的なピアニズムで次第に楽壇・社交界の寵児となりました。

全3曲からなる「愛の夢」の中で特に有名なこの「第3番」は、フェルディナント・フォン・フライリヒラートの詩にリストが作曲した歌曲<おお、愛しうる限り愛せよ>として生まれ、後にリスト自身がピアノ用に編曲しました。※色々調べてみましたが編曲された年は諸説があるようで、私には判断がつきかねますが、1848年ワイマールの宮廷楽長を務めることになった後のようです。

O lieb, so lang du lieben kannst /おお、愛しうる限り愛せよ(原詩は“愛の賛歌のようです)
素晴らしい歌声の動画です。(日本語歌詞つき)

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愛の夢第3番」は“心の中にある情熱と想い”がテーマになっているそうです。※リスト・アルバム カティア・ブニアティシヴィリ ソニーミュージック ブックレットより
この曲の創作背景には、ロシアの公爵夫人カロリーネとの恋愛関係にあると言われています。1847年作曲活動に専念するためリストは職業としてのピアニストを引退し、翌年ワイマールの宮廷楽長に就任します。リストの楽長としての公務を支えた陰にはカロリーネの存在がありました。
優しさに満ちた甘美なメロディーはカロリーネへの愛を感じさせるものだそうです。2人は結婚を望みましたが、結局カロリーネは夫との離婚が認められず、二人の愛は終わりを告げることになりました。(参考 NHK名曲アルバム100選 オーストリア・ドイツ編Ⅱ)

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もしかしたら一部こちらの曲を使用されているかもしれません。(10/14追記)

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オケの部分はこちらのアルバムの曲からではないかと思います。

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全員

 

 

 

リストというと、以前「ららら♪クラシック」で放送されたエピソードが忘れられません。リストはその技巧から「ピアノの魔術師」と呼ばれ、そのルックスと相まって熱狂的な人気を誇りました。
リストは音楽を広めることに注力したといいます。新しい企画を考えて、最後の実行までプロデュースしていく能力が人一倍高く、CDもレコードもない時代にリストは当時ヨーロッパの大都市で流行していたオペラや交響曲をピアノ用に編曲し、ピアノ1台を自ら運んで、各国各地で演奏会を開き“生きるレコード”として新しい音楽を紹介し、音楽そのものへ貢献したそうです。
リストはピアノによる「リサイタル」という演奏形式の確立(それまではジョイント式)や、交響曲と詩を融合させた交響詩というジャンルを開拓し、音楽の未来を切り開きました。
後年には後進を育てるために多くの時間を割き、故郷であるハンガリーブダペストの公立の音楽学校設立(現在のリスト音楽院)にも尽力したと言われています。

リストがピアノ1台とともに各地を回って音楽を広めたように、真央さんもスケート靴一つ抱えて、仲間とともにサンクスツアー、BEYONDと地方のリンクを巡り、スケートの素晴らしさを広めてきました。コロナ渦になる前は、ツアーの前日にその土地の子供たちを集めて自らスケート教室を開催していました。
そして、「MAO RINK」が来年秋に立川市にオープンする予定となりました。BEYONDで立川立飛には何度か行きましたが、近くに大きなショッピングモールなどがあって、子供たちもたくさんみかけました。近い将来「ちょっと“MAO RINK”で一滑りしてから帰ろうか?」という声が、立川のあちこちで聞こえてきそうな素晴らしい環境です。

 

7月16日に行われたエアウィーヴ様特別公演の「愛の夢」をマイナビニュース様がアップして下さいました!三浦文彰さんと三浦舞夏さんの生演奏で滑っていらっしゃいます!ありがとうございます!

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3月23日のエアウィーヴ様特別公演では、辻井伸行さん、三浦文彰さんと共演されています!!

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⑮BEYOND Grand Finale-PHOENIX-

 

BEYONDのオリジナル曲。
Devin Kinoshitaさんが作編曲されています。

 

テーマは「フェニックス/不死鳥」“私たちは何があっても諦めず何度も蘇り未来に向かって羽ばたく“という力強いメッセージが込められています。

 

全員

 

 




長い旅が一旦終わりを告げましたが、しばらく疲れを癒して、名プロデューサー真央さんの次なる企画と真央さんのスケートを楽しみにしています。


BEYONDのキャストの皆様、岳斗さん、嶺さん、遥さん、渚紗さん、優さん、恭廉さん、悠良さん、エルニさん、実丘さん、レオニ―百音さん、素晴らしいスケートをありがとうございました。
それぞれの個性が光る中で、スケートの上手さや身体の大きな使い方、細部まで気を配った美しい所作、豊かな表情は全員共通していました。いつも150%の力を出して客席までパワーを送ってくださってとても勇気づけられました。
最後のスペシャルプログラムで、エンドクレジットのように一人一人の名前がスクリーンに映し出されて、幕の中へ消えていくの見て、涙が止まりませんでした。
キャストの皆様の幸せと今後のご活躍を祈っています。またみなさんの素敵なスケートをみることができたらとても嬉しいです。


そしてスタッフの皆様、BEYOND製作チームの皆様、スポンサーの皆様に感謝します。

 

また、BEYOND公式様で、BEYONDのBlu-rayやフォトブックの予約ができます(9月上旬9月下旬以降の発送とのことです)。届くのがとても楽しみです。オリジナルのCD、プログラムやグッズも販売されているようです。

beyond-maotour.jp

 

「BEYOND展」も是非お願いします!!「サンクスツアー展」も真近で衣装がみれてとても嬉しかったです!!(その際は家でおかわりがしたいのでできましたら写真撮影OKでお願いします!!)

 

 

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